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【映画】『ローマの休日』はよい!


最後の、オードリー・ヘプバーン演じるアン王女の表情が、全てを物語る。


たった1日のことだった。


アン王女が公務に嫌気がさし、
外の生活を少しでも味わってみたいと
大使館を抜け出してから、そして、戻ってくるまで。


たった1日の間に、アン王女は成長を果たす。


世界を知り、人を知り、そして、自分を知る。


アン王女が、街をさまよい出会うのが、
新聞記者のジョーだった。

彼は、アン王女を王女だと認識できずに、
ぞんざいに扱ってしまうのだが、
彼のアパートまで無理やりついていったアンは、
そのままそこで眠り込んでしまう。

翌朝、ジョーは、自分の新聞社を訪れ、
アン王女が病気になったという報道を聞き、
その時初めて、自分の部屋にいるのがアン王女その人だということに気付く。

ジョーは、新聞記者として、このスクープを逃さないために、
アン王女の独占取材を取ることに躍起になる。

ジョーは、アン王女に自分が新聞記者であることを隠し、
アン王女は、自分が王女であることを隠す。

お互いの秘密が、この映画に常につきまとう。

その後、帰宅しようとするアンであったが、
ジョーの口車に乗り、ローマを観光することになる。

その後のローマ観光シーンが、この映画の有名な場面として
多くの人の印象に残っていることだろう。

そのなかでも、
真実の口の場面を見たことない人はいないだろう。

多くのテレビ番組でも放送され、
イタリア特集には欠かせない映像である。

がしかし、この映画のキモである、
「お互いがお互いに秘密を持っている」
という事実抜きに、あの場面を見ることはできない。

ジョーが手を隠し、真実の口に手を食われたというジョークは、
単なるジョークとして見ることは本当はできない。

なぜなら、相手に嘘をついているというお互いの心情が、
あの真実の口によって浮き彫りになるからである。

自分は嘘を付いているから手を食われるかもしれないと恐れるアンと、
同じく自分は嘘を付いているという後ろめたさをジョークでごまかすジョー、
お互いの心が行き交い、その断片を伺い知れるのが、あの真実の口の場面なのである。


いつ、お互いが真実を口にするのか、
それが観客の興味を引き、最後まで見入ってしまう。


真実の口の場所で明かすのか、
警察署で明かすのか、
パーティ会場で明かすのか、
秘密を抱いたまま、映画は最後まで続いていく。

そして、そのままアンは立ち去ってしまうのであった。



次の日、アン王女の復帰記者会見の場が執り行なわれる。

もちろん、そこには記者としてジョーは現れる。

そのとき、お互い初めて、
お互いの素性を明かした状態で、
相対する。

しかしながら、公の場で。



アンは王女として、そしてジョーは新聞記者として振舞うことしかできない。

そこには、他の新聞記者も数多くいるし、アンの取り巻きもいる。
アンはジョーを特別扱いすることはできないし、
ジョーもアンに馴れ馴れしくできない。


そう、だからこそ、最後は、お互いの表情が重要になるのである。


そこでは、直接的にお互いついていた秘密を弁解するチャンスもなく、
相手を許すということも伝えることができない。


その緊張感こそが、最大のクライマックスとして、描かれる。


表情で会話し、公の言葉の中に、二人だけの会話を成り立たせる。


ジョーが記者であったことに戸惑うアンであったが、
政府間の関係についてどう思うかという質問に対して、こう述べる。
「個人個人が関係を維持することが大事である」
と。

それは、まさにジョーの嘘を受け入れ、
お互いの関係を維持するということを、
「政府見解」として述べたのであった。

そして、ジョーもそれに対して、「通信社」として、
「その王女の信頼は裏切られないでしょう」と述べるのである。


この最後の数分のやりとり、そして二人の表情を見て、
観客は、このローマにおける休日の数々の思い出を想起する。


そして、最後、アン王女は、みんなの顔を眺める。
その視線がジョーに移ったときに、
笑顔と、そして悲しみの表情を浮かべ、
そして振り向き去っていく。


この最後の表情で、あらゆる思い出はフラッシュバックし、
あらゆる思いが浮かんでは消える。

喜びや楽しみ、そして悲しみや嘆き、
それらが一緒くたになって、
観客の胸に突き刺さる。



その最後の表情を味わうために、
この映画は作られたと言っても言い過ぎではないのかもしれない。





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by shinya_express | 2010-11-19 20:02